早稲田の古本屋街で、辻政信の著作『潜行三千里』(s23)を見つけた。

辻は戦前のエリート将校で、あの瀬島龍三の先輩にあたる。辻は功名心が強く、責任転嫁や無謀な作戦をする、まあ帝国軍人の汚点の権化である(見事に成功した作戦もあり、無能というわけでもないがそこが厄介な参謀たるゆえん)。シンガポールで英兵の人肉を食べた(!)戦犯嫌疑で戦後終われるも、蒋介石の密命を受けたといって東南アジア、中国を逃げ回り、その体験談を帰国後出版したのがこの本である。ベストセラーになり、その勢いも借りて辻は見事に衆議員に当選した(その後インドシナの民族運動に加勢しに行くといって潜行、そのまま行方不明)。

 

 大売出しであったこともあり、神保町などに行けばよく目にするものだが、自分の研究領域に近いと思って今回かったのだ。840円のこの本を後で開くといきなり以下のページ。 「潜行三千里決定版」の箇所は題字と同じ字体で印刷とわかるが問題は「敬贈 大橋武夫様 辻政信」の箇所。


光にかざすと題字とは違った色合いでインク(墨)の流蹟がある。直筆だ。「敬贈 ~様」とあるから偽者とは考えにくい。・・・・・


本物である。辻政信が大橋武夫なる人物に贈ったのだ。大橋武夫てだれだ?


と思い、辻政信とセットで検索すると、陸軍士官学校を辻より4期下で卒業し、陸軍中佐までになる。戦後は東洋精密工業社長、偕行社副会長など。孫子や史記などをモチーフに、兵法と自身の軍人経験からビジネスマンのための経営論を述べていく作品を多く出版している。


・・・・。


自分のスタンスは「仕切られるのも仕切るのも嫌い」である(それじゃ世の中渡ってゆけぬという輩を行動で黙らせるのが自分の人生の夢の一つ)。したがって大橋さんは、


きらいである。経営者、まず嫌い。兵法からの経営論、ますます。軍人の経験から←自分は元左翼(今は?)ゆえ更に嫌い。そして古典をモチーフ←権威主義者の諸手法はここに画龍の点睛を加えらる。


そして辻政信。エリート、無責任、目立ちたがり屋・・・・・・。

言うまでもない。あえテ言うと、「こういう人間がいる限り、自分はその抵抗の存在として、生きていく価値があるものになる」。


ここまで言ったものの、辻政信の直筆である。


う~~~ん。例えて言うなら、

「好きでもない女に限って好かれてしまう」、だろうか。